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映画『イニシェリン島の精霊』が難解だったので考察してみる

イニシェリン島の精霊 アイルランド

イニシェリン島の精霊(原題:The Banshees of Inisherin)』は2022年公開ゴールデン・グローブ賞3部門受賞の作品です。

最後に大どんでん返しの大団円を期待すると思いっきり裏切られる作品で、比喩や暗示が多く、物語の舞台であるアイルランドの歴史を知らないと難しく感じる作品のように感じました。

ということで、ここでは、映画を観てかつ色々とリサーチをしながら得た情報を元に考察をまとめたいと思います。

※この記事では映画の舞台や出演者に関する情報もまとめていますが、映画を既に観た人向けにネタバレ含む内容で書かれています。(ネタバレが含まれる項目には★をつけています。)

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『イニシェリン島の精霊』

『イニシェリン島の精霊』はマーティン・マクドナー監督による作品です。

アイルランドの小さな孤島イニシェリン島に暮らすパードリックは、ある日突然、長年の友人コルムから絶縁を言い渡されてしまいます。

突然の宣言に戸惑うパードリックでしたが、コルムとの関係修復には至らず、むしろこれ以上関わるなら指を切り落としてくれてやるとコルムから宣告されてしまいます。

12歳未満の子どもの鑑賞には親の判断が必要というPG12指定の作品となり、一体どんな過激なシーンがあるのかと見始めましたが、多分に過激な作品でした・・。

『イニシェリン島の精霊』の物語の背景にあるもの

物語の背景

物語は1923年のこととして語られます。

アイルランドでは、1921年、条約によりアイルランド島32県のうち26県に自治権を持つようになりましたが、残り6県については完全なイギリス領とされたことで、1922年より内戦が起こっていました。

26県の自治権を持つことをまずは良しとする側と、アイルランド全島の完全独立を求める側との間で闘争が起こっていたのです。

物語の節々にも、この内戦のことを伝えるセリフやシーンが登場します。

① 物語序盤「面白い記事は?」と妹・シボーンに聞かれたパードリックは「内戦のことだけだ」と答える
② 遠くの方から銃撃戦の音が聞こえ、パードリックが「せいぜい頑張れ」と呟く
③ パードリックとドミニクが「本土じゃ銃撃戦をやってたな」といった会話をする
④ 警官であるドミニクの父が死刑執行を手伝いに行くという話の中で、IRAや自由国側といったことを口にする

映画の内容を理解するためには、この時代背景を理解しておく必要がありそうです。

内戦につながるまでの様子を描いた映画『マイケル・コリンズ』もオススメです
さらに詳しく歴史を辿るならこちら↓↓

『イニシェリン島の精霊』のロケ地

映画ロケ地

アイルランドの孤島が舞台とはしていますが、イニシェリン(Inisherin)という島は存在せず、架空の島での物語ということになります。

たびわ
たびわ

ちなみにエキストラ募集の情報をキャッチしてたことがありまして、その時の情報を探るとイニシュモア島(Inis Mór)とアキル島(Achill)あたりで撮影があり、特にイニシュモア島が主なロケ地となっていたようです。

アイリッシュセッション

コルムとパードリックの関係がますます悪化している中でのセッションシーンはなかなかに異様で恐ろしいところもありますが、フィドルの軽やかな音が聞こえてきたり、バウロンというアイルランドのフレームドラムの音がよく響いていたり、映画ではパブでのセッションシーンも頻繁に登場します。

コルム演じるブレンダン・グリーソンは元からフィドル奏者で、歴史映画『マイケル・コリンズ』に登場した時にもフィドルを演奏していたりします。

もはやホラー?な映画ではありますが、アイリッシュ音楽やアイルランドらしい美しい景色を楽しめる作品の一つであることは間違いないようです。

↓↓ この先ネタバレを含みます ↓↓

先にも紹介しているように、この映画の時代背景としては、本土で内戦が激化していたというのがあります。

あまり深掘りせずストーリーを追えば、仲違いしたおっちゃんたちの不毛な戦いといったことになりますが、内戦の始まりから経過の観察と思ってみるとゾッとすることがたくさん見えてくるように思うのです。

登場人物の意味するところ ★

登場人物

パードリックとコルムの仲違いを見守る登場人物たちもそれぞれに何かを示唆するような結末があります。

「内戦下での人々」という視点を持つとそれぞれの結末にもさらに意味を見出せるようなのです。

妹:シボーン

島を出る準備を進めていたらしいシボーンでしたが、指を全て失ったコルムとの遭遇でついに島を出る決意を固めます。

これはまるで紛争を逃れ難民となっていく人を描いているように見えます。

風変わりな隣人:ドミニク

バリー・キョーガン演じるドミニクは、発達障害を伺わせるような雰囲気があり、どうやら警官である父親からは虐待も受けていたと思われます。

彼については、パードリックから妹・シボーンに宛てた手紙の中で、湖で水死体として見つかったと伝えられます。

死因は明確に伝えられませんが、物語の前半、島の店の女主人に、ドミニクの父親がニュースとして伝えた話の中に、「健康な29歳の男性が湖に入水自殺した」と語っているシーンもあることから、ドミニクも同様に自殺だったのではないかと考えられます。

内戦状態が続く中、自分にはどうにもできないとなった時、自ら命を断つという形で消えていく犠牲者を示唆しているようにも読み取れます。

ロバ:ジェニー

人ではないですが、コルムの指を食べてしまったことで窒息死となったロバのジェニーもまたこの仲違いによる犠牲者のようです。

内戦の中、なんでもない善良な市民も犠牲になっていくことの示唆でしょうか。

警官:ドミニクの父親

警察という立場にありながら残忍な人物として描かれるドミニクの父親は、どこか、内戦下のアイルランドから見る英国人といった立ち位置の人物のように見える気がします。

泣き妖精・バンシー ★

バンシー

日本語版のタイトルからは完全に消され、字幕や吹き替えでも「Banshee」を「精霊」としてしまっているようですが、「バンシー(Banshee)」とはアイルランドに伝わる妖精のことです。

バンシーは家の近くや川の近くで泣き叫び、死が近いことを知らせる女の妖精とされています。(イラストなどで表現されるバンシーは髪が長く、ローブを纏い、フードをかぶっているようなものも多いです。)

劇中、泣き声は聞こえませんが、どこに行くにも黒いローブを身にまとった老婆・マコーミックが画面の隅に潜むように登場し、遂には人の死も予言します。(パードリックがシボーンを送り出すシーンでも人影が映りますが、これもマコーミックなのではないかと思います。)

湖でマコーミックに手招きされたシボーンが「ghoul(食屍鬼しょくしき)」(英語字幕だと「死神」?)という言葉も出していますが、Bansheesと原題にある通り、この物語にはずっと「死」がついてまわっているということのようです。

アイルランドの妖精や神話についてはこちらの記事にまとめています↓↓

最後のやり取りの意味するところは? ★

映画の最後、バンシーを思わせるマコーミックが椅子に腰掛けて見守る中、パードリックとコルムが海の前で内戦に絡めた話をします。

「内戦も終わりか」と言うコルムに、「どうせまた始まるさ。終わりにできないものもある。いいことだ。」とパードリッグが答えるわけですが、最後の「いいことだ。」というセリフだけがどうしても理解できませんでした・・。

ふと、音楽ができ、学もありそうなコルムと、口下手なパードリックを想うと、少しステレオタイプ的にコルム=イギリス、パードリック=アイルランド的な立ち位置で表現されているような気もしたりしてきます。(・・となるとますますパードリッグの「いいことだ」が理解できないのですが。)

途中途中の教会での懺悔のシーンなど、分析できそうなところは多くあり、やっぱり難解な映画です。

補足:映画に登場するパブのその後

物語で重要な場所の一つであるパブ「J.J. Devine」は映画のために特設されたセットらしいのですが、現在はアイルランドの西側・ゴールウェイのキルケリンにそのままパブを再現する形で営業をしているらしいです。

再現パブにはロバもいるらしい!

英語の記事ですがパブの再建を伝える記事です↓↓
‘We have reserved the first free pint for Taylor Swift’ – Iconic ‘Banshees of Inisherin’ pub restored to former glory in Co Galway
The iconic pub from Martin McDonagh’s Banshees of Inisherin has been relocated to a family-run business in Co Galway whe...

『イニシェリン島の精霊』の考察まとめ

ごく個人的な感想としては、物語の構造的に『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』を思い出しました。

『ライフ・オブ・パイ』には後日談がついていて、主人公・パイにより語られる「もう一つの物語」によってちゃんとネタバラシがありますが、『イニシェリン島の精霊』は解釈を全て観客に委ねる感じがあります。

日本人にとっては、背景にある内戦の歴史が掴みづらく、表向きの物語が際立ってしまうこともあると思います。

解釈は様々あるので、ここにまとめた考察が全て正しいとはなりませんが、物語の解釈が見る側に丸投げされることで、この映画の好き嫌いがはっきり分かれることになるのかもしれません。

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